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Report2

体験談・実践例2

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授業中にお菓子を食べる子

 私は、近所の個別補習塾で講師としてアルバイトをしている。ある小学生の男子生徒がいつも問題を起こし困っていた。授業中にお菓子を食べることや寝ること、他の生徒に迷惑をかけることなど、いつも言うことを聞いてくれずどうしたら良いものかと悩んでいた。そして、ヴァーチューズ・プロジェクトの5つの戦略の二つ目にある「教えるのに最適な瞬間に気付く」を実践してみようと思った。

 次の授業の時、その男の子がお菓子を机の下に隠して食べている横に座り、「どうしたらお菓子を食べないで、授業に参加することができるかな」とやさしく聞いてみた。すると男の子はちょっとびっくりして「だってお腹がすくと勉強できないんだもの」と答えた。私は「じゃあ、どうしたらお腹をすかせないで、勉強できると思う」と聞くと、男の子は「家で、ご飯をちゃんと食べてくればお腹はすかないよ。でも、お母さんが働いていて夕飯が塾の時間までに間に合わないんだ」と言った。私はその時、今までどうしてその子を頭ごなしに怒っていたのかと反省させられ、また今までの自分が恥ずかしく思えた。

 その後、私たちは二人でお腹を空かせないで教室に来るためにはどうしたら良いかを考え、お母さんからお金を貰って近所のお弁当屋さんのお弁当を授業の前に食べるということを決め、彼は授業でお菓子を食べなくなった。また、他の彼の行動に対しても同様に、ひとつひとつ問いかけてみた。そしてこのようなことを繰り返す中、彼は自然と自ら考え行動してくれるようになり、次第に授業にまじめに取り組む姿勢が見えてきた。

 私はこの経験を通し、今まで悩んでいたことがこんなに簡単に解決することに驚くと同時に、このプロジェクトの力にとても感心させられた。私は今までその子に対して「しかる」ことで態度を改善させようと試みてきた。しかし、いくら真剣に怒ってもその場だけであり、彼にとっては恥をかかされたという思いと反抗する態度が生まれ、生徒と教師の間に壁を作ってしまっていた。今回、ヴァーチューズ・プロジェクトを使うことで相手を責めず、また恥をかかせずに生徒に今一番大切なことを気付かせることができた。また「レッテルではなく美徳を使う」ことで、生徒が実践した美徳を促進させ、また実践したことの意味を生徒に深く印象づけることができ、生徒たちは持っているすばらしい美徳の贈り物を発揮してくれると感じた。

 

4

算数の計算嫌いの子ども

 ヴァーチューズを私が活用したのは、アルバイト現場である。私は現在、小学生を対象とした中学受験のための予備校で、「子供の仲間となり寄り添いながら学習をサポートする」という仕事をしている。

 その仕事の中に、子供が家庭で勉強した際のノートを見てコメントを書く、というものがある。子供にはあらかじめ渡されている復習用テキストを解き、丸付けをした状態で提出してもらう。それを私たちが見て、解き方のアドバイスや励ましの言葉などを書き、スタンプを押してご褒美のシールをあげるのだ。

 ある一人の子は、ノートは出してくれるのだが丸付けの仕方がいい加減なのだ。明らかに間違っているところ、果ては空欄のところまで丸がついており、「満点やった☆」とコメントを書いて提出してくる。偽って丸をつけても、結局復習しない限りいつまでたってもその問題は正解できない。しかし、このことをなかなか本人に伝えることができなかった。

 私は、ノートを返す時、じっくりと話す機会を作った。

私「今回のノートだよ。見せてくれてありがとう。今回の範囲の復習、どうだった?」

子供「ちょっと難しかったかな…」

私「何が一番難しかった?」

子供「僕、算数の計算嫌いなんだ。だから嫌々解いていたらすごく時間がかかっちゃったんだ」

私「どうしたら計算好きになれる?」

子供「解ければ楽しいと思うんだ。パズルとかは好きだから。でもわかんないんだもん」

私「じゃあ、算数がわかるようになるにはどうしたらいいかなぁ?」

子供「ちゃんと質問に行ったり、授業聞いたりすればいいと思うんだ。丸付けもね、復習するの嫌だから適当に丸付けちゃうときがあるんだ。でも解かなきゃわかるようにならないよね、きっと」

私「○○君は解けるようになろうっていう目的意識も持っているし、実は適当に丸付けしちゃうってことも私に打ち明けてくれる勇気を持っているね」

子供「そうかなあ…でも、これから逃げないで頑張ったら算数得意になれるかなぁ?」

私「○○君の決意する気持ちがあれば、きっと頑張れるよ!」

子供「じゃあ先生、来週はごまかさないで頑張ってみるね。だからわかんないとこ、教えてくれる?」

私「○○君の勤勉な気持ちに、私も責任を持って答えるからね。一緒に頑張ろうか!」

 このように、ところどころに美徳の言葉を混ぜながら、できるだけスピリチュアルな同伴のプロセスを意識して会話を行ってみたところ、その子は次回からほかの子にもまして真面目に、どの教科も取り組むようになってくれたのである。翌週から、などというようにすぐに結果が出るとは私も思わなかったため、その子の変容ぶりにはとても驚いた。

 後でわかったことだが、その子は今回のようにじっくりと自分の話を聞いてもらう機会がなかなかなかったそうだ。いつも親から「こうしなさい」「こうしちゃダメ」と押し付けられるように物事をやらされていたために、逆にやりたくなくなってしまっていたのだという。

 子供の学力低下がよく言われるようになったことで、自分の子供だけは学力を持たせたいと躍起になり、「子供は何もわからないのだから自分が全部やらせれば良いのだ」と考える親が増えてしまったようである。しかしそのような親がこのヴァーチューズ・プロジェクトを採用するようになれば、幼い頃から美徳を育てることができるようになると思う。

 

 

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