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体験談・実践例

 たくさんの事例のなかから4つのエピソードをご紹介します。

※これとは別に、ヴァーチューズ・プロジェクトの日本での実践をまとめた
 2011年発行の小冊子(画像参照)は一部500円でお譲りしています。
 
 VP実践事例集
 ・・・心と心をつなぐ言葉の教育プログラム
詳しくは教材紹介ページでご紹介しています

Report

1

母親との関係でヴァーチューズを使った大学生

 毎回、授業の最初に美徳のカードの発表がありますが、私はそれを聞いて、自分や親について考えるようになりました。帰宅の時間が違ったりで顔を合わせることが少ないのですが、会えば衝突ばかりしていました。落ち着いて考えると後悔や反省しか残っていませんでした。違う言葉を言っていたら、美徳の言葉を使っていたらと考えたりしていました。

 そんな私にとって授業のときにクラスの子と考えをシェアできるのはとても大切な時間になっており、また考えさせられる時間でもありました。授業が進めば進むほど悩みました。実践してみるべきなのか、違う解決法を見つけるべきなのか、でも私は決めました。この授業で習ったことを実際に使ってみようと。

 ただ、私が勝手に話しても通じないところもあると思ったので、あらかじめ母に説明をしました。すべてを話したわけではありませんが、強調したことがあります。「私は母の話を思いやりの気持ちで聞くから、母は私の話を理解の気持ちで聞いて欲しい」ということです。私の悪いところは、話を流してしまうことがあり、決め付けてしまうことがあるので「思いやり」の美徳をもって聞こうと思っていました。母は私の考えを否定して自分の意見を押し通そうとするので「理解」の美徳をもってもらうように約束してもらいました。

 約束したのは良いのですが、そううまくいきませんでした。衝突はしないのですが、いらいらする日が続きました。そこで、感じていることをお互いに正直に話しました。衝突もありましたが、すぐ頭に血が上って話す傾向がある私は、十分注意して話すように心がけることにしました。それがいつの間にか自然になっていました。でも、美徳の言葉を使いながら話すのは難しく、まずは、美徳の言葉を心の中で話すことにしました。

 やはり、気持ちの持ちようで、物事はどのようにでも変わっていくのだなと思いました。少しずつ、普通に話せるようになってきたので、使いやすい言葉、「優しさ」や「思いやり」などを会話の中に入れていきました。最初は戸惑いもありましたが、本当に感じたときにだけ承認として会話の中に美徳の言葉を入れることで相手にも自分の気持ちが伝わっていきます。前は「愛」とか『勇気』とかいう言葉を口にするだけで恥ずかしいという気持ちがありましたが、今はありません。

 母との会話を通してここまで勉強になるとは正直思っていませんでした。私は“人間と言語”(ヴァーチューズ・プロジェクト)を受講して本当に良かったと思っています。自分の内面の深いところまで入り込み、自分自身と向き合うことができたのはこの授業のおかげであり、先生のおかげであり、一緒に勉強してきた仲間のおかげだと思っています。本当にありがとうございました。

2

勉強に疲れた男の子

 一人暮らしの私が部屋を出ようと戸を開けると、見知らぬ男の子がアパートの廊下に屈み込んでいた。小学校中・高学年くらいの年齢に見えた。私は驚いたが、彼の目が泣いた後のように赤かったのが気に掛かり、思わずこんにちはと声をかけた。彼は黙っていたが、次に私が大丈夫と尋ねると、「遊びで隠れているだけだから、平気です。今日は学校も休みなんです」と答えてくれた。

 買い物から帰ってくると彼はまだそこにいた。私はヴァーチューズ・プロジェクトを実践してみることにした。

 私は彼と同じ目線になるようにしてその場にしゃがみ、愛想の良い笑顔で話しかけた。何かあったの、と訊いてみると、いや遊んでいるだけです、と先ほどの答えが繰り返された。問い詰めるのは良くないと思ったので、違う方向から質問してみた。

私「そっか、遊んでるんだっけ。かくれんぼか何かかな。目がちょっと赤くなっちゃってるのは、何かあったの?気になるから、嫌じゃなかったら教えてくれると嬉しいな」

 彼は口籠り、やがて黙ってしまった。私は訊き方がまずかっただろうか、と質問し直そうかとも思ったのだが、待つことや受容的な沈黙が大事だと習ったので、我慢して黙っていた。少しして、ようやく小さな返事が得られた。

彼「これはちょっと、泣いたっていうか」

私「泣いた?それで目がそんなになっちゃったんだ。そっか、ありがとね。目、縁とか赤くて痛そうだね。どんな気持ちがして、涙が出ちゃったんかな?」

 彼はまた黙ってしまった。しかし今度の沈黙は先程よりも短かった。

彼「気持ちは、よくわかんないですけど…親と喧嘩して」

私「喧嘩しちゃったんだ。大変だったね。気持ちがよくわからないのは、何が理由だろう?」

彼「わかんないっていうより、なんて言っていいのかわからない、みたいな.哀しい感じ?です」

私「ああ、何か色々混ざっている感じ?感情を一言で言うのは難しいよね。答えてくれてありがと。ところで、一体何があって喧嘩になったの?」

彼「勉強のことで」

 彼の声は泣くのを我慢しているような感じで、目も潤んでいて、私も話を聞いていて少し辛かった。できるだけ、授業でやったような質問や反応の仕方を使うようにしながら、ゆっくり言葉を選んで話していると、彼もぽつぽつと質問に答えたり、説明したりしてくれた。

 彼の話を要約すると、彼の母親がわりと教育に熱心な性質で、この日の朝も塾やら学校やらのことで揉めてしまったらしい。彼が勉強疲れから、今日は塾を休みたいと言ったのが発端だった。私も勉強を強制されるのは好きではなかったので、途中から愚痴のようになりはじめた彼の話に、一緒になって文句を垂れていた。意識はしていなかったが、同調することで、相手の立場になってみること、つまり、ヴァーチューズ・プロジェクトで言うところの「スピリチュアルな同伴」に必要な、「共感」の美徳が使えていたのだと思う。

 ひとしきり不満を吐き出すと、彼が溜め息を吐いて沈黙した。その溜め息に対して、私は思わずどうしたの、と訊いてしまい、内心でしまったと思った。しかし、彼はぽつりと呟くように答えてくれた。

彼「疲れた」

私「疲れたね」

彼「はい」

私「なんとかして疲れない方法ってないかなあ」

彼「勉強の時間が、もうちょっと減ってくれればいいと思います」

私「そうだね。減ってくれれば楽になるよね。でも、どうやって減らすかが問題じゃない?」

彼「塾の曜日を減らしてもらいます。減らしてもらえるかどうかわからないけど」

私「お母さんに言ってみるの?」

彼「うん、言えたら言ってみる」

私「すごいね、勇気あるね。喧嘩した相手とちゃんと話そうって思うのは、なかなかできないよ。そう言えば、話し方とかきちんとしてるもんね。しっかりしてるんだ」

 美徳の承認のつもりで褒めていたら、彼は困ったように少し笑った。照れ隠しのようだった。

 もし私が「家に帰らないと駄目だよ」「学校はどうしたの?」などと責めるような言葉を口にしたりしていたら、どうだったろうか。おそらく、最後の「母親と話し合ってみる」という意見を、彼が持つことはなかっただろう。

 ヴァーチューズ・プロジェクトを使うと、子供を傷つけることなく、素直に正しい道へ導くことができる。これは是非、全国の学校、あるいは家庭で使われるべきだと思う。将来的に、もし本当に子供の教育に活かされるようになれば、非行や不登校といった問題は大きく減少させることができるのではないだろうか。

 

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